コールセンターのASA(平均応答時間)とは?改善の考え方と注意点を解説
コールセンターのASA(平均応答時間)とは?改善の考え方と注意点を解説

 

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ASAの現状に課題を感じていませんか。ASAはコールセンターの運営効率と顧客満足度を左右する重要な指標です。しかし、単に「早く応答する」ことを目標にすると、応対の品質やCXを損なうリスクもあります。
本記事では、ASAの定義や算出方法、悪化の原因、運用・システム両面からの改善策をわかりやすく解説。IVRやボイスボット、CRMなどを活用しながら、現場の負担を減らしつつ持続的にASAを改善する方法を紹介します。

 

ASAとは?コールセンター運営で重要な理由

まずはASAの基礎知識を押さえましょう。

ASAの定義

ASA(Average Speed of Answer)は、オペレーターが顧客からの呼(コール)に応答するまでにかかった平均時間のことです。「平均応答時間」とも呼ばれ、コールセンターのパフォーマンスを測る代表的な指標のひとつです。
一般的に、ASAが短いほど顧客を待たせない体制が整っていると評価されます。

ASAの計算式

ASAは、応答した通話の待ち時間の合計を、応答件数で割った値で算出されます。
 ASA = 総待ち時間 ÷ 応答件数
例えば、100件の着信のうち、応答までの待ち時間の合計が5,000秒であれば、ASAは「50秒」となります。ASAはオペレーターの稼働効率や回線設計、シフト配置などのバランスを反映しており、センター運営の健全性を判断する重要な材料となります。

SLとASAの違い&指標の意味

ASAと混同されやすい指標にSL(サービスレベル:Service Level)があります。

サービスレベルは「一定時間内に応答できた割合」を示す指標で、たとえば「20秒以内に80%応答」など、あらかじめ設定した目標値に対してどれだけ達成できたかを評価します。
一方、ASAはあくまで平均値のため、極端に長い待ち時間が発生すると全体の値が悪化する傾向があります。つまり、ASAは「実態の平均」であり、SLは「目標達成率」という違いがあり、両者を併せて分析することでセンターの応答品質をより正確に把握できます。

ASAは顧客満足度と業務効率の指標

ASAが長くなると、顧客は「つながりにくい」「待たされた」と感じ、離脱や不満の要因になります。特に解約やクレーム対応など、顧客感情がシビアな場面では、待機時間がわずかでも満足度に大きく影響します。
一方で、ASAを短縮しようとして過剰な人員を配置したり、オペレーターに過度な負荷をかけると、応対品質の低下や離職を招く恐れがあります。
こうした背景から、ASAは単なるスピード指標ではなく「CX(顧客体験)と運営効率のバランスを測るKPI」として位置づけることが重要です。

「数値目標」ではなく「CX」の観点で改善する

ASA改善の本質は、「何秒で取るか」ではなく「どのように顧客を待たせない体験を提供するか」にあります。単に平均値を下げるのではなく、顧客が「待たされた」と感じない体験をデザインすることこそが、CX向上と持続的なセンター運営の鍵です。

コールセンターのASAが悪化する3つの原因

コールセンターのASAが悪化する背景には、単なる人員不足だけでなく、センター全体の運営設計や問い合わせ構造の変化が関係しています。
ここでは、ASAを悪化させる代表的な3つの要因を整理します。

オペレーター不足・スキル格差による応答遅延

よくある原因の一つが、オペレーターのリソース不足とスキル格差です。採用難や離職率の上昇により、必要な人数を確保できず、着信に対して即応できない時間帯が発生します。
また、新人やパートタイムスタッフの割合が増えると、対応スピードや判断力にばらつきが生じ、ASA全体を押し上げる要因となります。

本来、ASAを安定化させるには「呼量の平準化」や「適正なスキルマッチング」が欠かせません。
しかし、シフト設計や教育体制が整っていないと、稼働率を上げるための一時的な応急処置(例:呼を振り分ける優先設定変更など)が恒常化し、かえって現場の負担を増やしてしまうケースもあります。

入電数の急増や問い合わせの集中による待ち時間の長期化

キャンペーン期間やシステム障害、季節要因などによって入電数が一時的に急増すると、待ち時間の長期化につながります。
コールセンターでは、日や時間帯によって入電量が数倍に跳ね上がることも珍しくありません。
このようなピーク時に人員を十分に確保できない場合、待機呼が増え、ASAが急激に悪化します。

近年では、チャットやメール対応の同時進行によってマルチチャネル対応へ移行し、オペレーターの注意が分散してしまうことも、ASA悪化の一因となっています。

AHT(平均処理時間)の増加、問い合わせ内容の複雑化

ASAと密接に関係するのが、AHT(Average Handling Time:平均処理時間)です。
AHTが長くなると、通話が回転しないため、待機している呼の処理が遅れ、ASAの悪化を招きます。

AHTが長くなる背景には、問い合わせ内容が複雑化し、FAQだけでは解決できないケースが増えていることが挙げられます。
特に、商品・サービスの多様化や個別対応の増加により、オペレーターが対応中に確認作業を行う時間が増え、処理効率が低下しています。

運用改善でできるASAの短縮策【3つ】

ASAを改善するためには、運用改善を継続的に行うことが欠かせません。ここでは、現場で実践しやすい3つの改善策を紹介します。

人員配置の最適化

ASAを左右する最も大きな要素は、人員配置の最適化です。入電数の変動を正確に予測し、時間帯別・スキル別に最適なシフトを組むことで、呼の偏りに対応でき、待ち時間を安定させることができます。
人員配置の最適化のために大切な考え方が、WFM(ワークフォースマネジメント:人的資源を最適化し、生産性を高めるマネジメント手法)です。WFMツールを活用すれば、入電予測データに基づいて「必要なときに必要な人数を配置する」運営が実現します。属人的な判断から脱却し、データに基づく配置設計を行うことが、ASA改善の第一歩です。

スクリプト・FAQ整備、ナレッジ共有による対応スピード向上

応答までの時間短縮だけでなく、対応そのもののスピードを上げることもASA改善には有効です。スクリプトやFAQを整理し、ナレッジとして共有することで、誰でも同じ品質で回答できる体制を整えられ、応対完了までの時間を短縮できます。

特に、新人オペレーターの教育やOJTにナレッジ基盤を活用することで、対応スピードと品質の両立が可能になります。FAQの整備は単なる情報集約ではなく、センター全体の応答力を底上げする「攻めの改善施策」といえます。

業務プロセスの見直し

業務フローが複雑化していると、オペレーターは確認や転送に時間を取られ、結果的にASAが悪化します。
応答から完了までのプロセスを定期的に棚卸しし、無駄な確認・重複作業・非効率なルールを見直すことが重要です。


システムによるASA改善の手法

ASAを改善するもうひとつの有効な手段が、システムによる自動化・効率化です。IVR(音声自動応答)やボイスボット、CRM連携といった仕組みを活用することで、応答スピードを大幅に高めることが可能です。

チャットやWebフォームを活用し、入電自体を減らす

近年では、チャットボットやWebフォームを活用し、電話問い合わせを分散することでASAを改善するケースも増えています。
特にFAQで解決できる単純な質問はチャットへ誘導し、複雑な相談やクレーム対応にオペレーターを集中させることで、センター全体の稼働効率を高められます。

チャットボットによる業務のデジタル化については「チャットボットはDX推進の第一歩――コールセンターの課題解決から始める、現場起点の業務デジタル化ガイド」をご覧ください。

IVRの自動振り分けによる応答時間の短縮

IVR(自動音声応答)を活用すれば、問い合わせ内容や顧客属性に応じて最適なオペレーターへの自動振り分けが可能になります。たとえば「契約関連」「操作方法」「障害報告」などを事前に分岐させることで、オペレーターが転送に費やす時間を削減し、ASAを短縮します。
最近では、顧客履歴や過去の問い合わせデータをもとに、AIが最適な経路を自動判定するIVRも登場しています。

ボイスボットの一次応答自動化による待機時間削減

ボイスボットは、一次応答を音声で自動化する仕組みで、営業時間外やピーク時でも自動で対応できるため、待機呼を大幅に削減できます。たとえば、「住所変更」「パスワード再発行」などの定型問い合わせをボイスボットで完結させることで、オペレーターはより付加価値の高い業務に集中できます。

結果として、応答スピードだけでなく、現場の稼働効率やCXも向上します。

ボイスボットの導入によって実現できることについては「ボイスボットとは?導入効果を最大化するための成功のカギ」をご覧ください。

CRM連携で顧客情報を即時参照し、応答精度とスピードを両立

IVRやボイスボットとCRMを連携させることで、顧客情報を自動で取得・表示できるようになります。オペレーターが本人確認や過去の対応履歴を探す手間がなくなり、「早く・正確に・一貫した対応」が可能になります。このようなシステム連携は、ASAの短縮と同時に、CS(顧客満足度)の向上にも直結します。

CRM導入によって実現できることについては「コールセンター/コンタクトセンターにおけるCRM導入の効果と成功のポイント ― 顧客体験を高める仕組みとは」をご覧ください。

生成AIによる業務効率化

近年では、生成AIによるオペレーター支援により、ASAを改善する方法も様々登場しています。

 

<生成AI活用の例>
FAQの自動生成・更新
応答内容をリアルタイムで提案
通話ログやVOC分析から課題を抽出

生成AIの活用術について詳しくは「コールセンター/コンタクトセンターのAI活用術|拡張性・セキュリティ設計が成功の鍵」をご覧ください。

部分最適なシステム導入に注意!

IVRやボイスボットなどの導入はASA改善に効果的ですが、設計を誤ると「部分最適」に陥る危険があります。

システムの単発導入で管理の煩雑化・運用の持続性低下を招く

ASAの改善を目的にIVRやFAQシステムを単発で導入した結果、システムが乱立し、設定や管理が煩雑化するケースがあります。こうなると現場に負荷がかかり、むしろASAが悪化する場合もあります。
また、運用フローやスキル構成に合わないまま導入を進めると、「機能はあるが使われない」「更新が手間」といった形で、運用の持続性を損なう恐れがあります。目的が「ASAを短縮すること」から「ツールを導入すること」にすり替わってしまう点も注意が必要です。

部分最適なシステム導入にならないための対策

まず現場フロー全体を見える化し、顧客導線と応答設計を一体で再構築することが重要です。IVRやCRM、ボイスボットを単体でなく連携させ、データを統合することで、どのチャネルからでもスムーズに応答できる体制をつくれます。

システム構築を成功させるためのポイントについては「コールセンター/コンタクトセンターのシステム再構築|運用される設計で失敗を防ぐ」をご覧ください。

また、システムの全体最適化を進めるには、現場理解とシステム開発の両面を兼ね備えたパートナー選定が鍵です。岩崎通信機のように、PBXからCRM、AIまでを一気通貫で設計・実装できる企業と連携することで、導入後も運用負荷を抑えながら、継続的にASA改善を実現できます。
詳しくは「コンタクトセンター構築サービス」をご覧ください。

ASA改善で失敗しないためのポイント|スピードと品質の両立

ASA改善を進めるうえで重要なのは、単にスピードを上げることではなく、品質と運用の持続性を両立させることです。ここでは、ASA改善で失敗しないために押さえておきたい3つのポイントを紹介します。

応答スピードを追求しすぎない

ASAは重要なKPIですが、スピードだけを追い求めると、かえってCXの質を損なう可能性があります。応答を急ぐあまり、オペレーターが通話を短縮したり、説明を省略してしまうと、顧客の理解不足や不満を生み、再コールやクレームにつながることもあります。ASAは単なる「早さの指標」ではなく、顧客満足度と業務品質を両立させるためのバランス指標として捉えることが重要です。

ASA改善をオペレーターへ課すのではなく、現場の仕組みで実現する

ASAを短縮するために数値目標を厳格化しすぎると、現場に過剰なプレッシャーがかかります。応答スピードや件数の達成をノルマ化し、方法をオペレーター任せにしてしまうと、心理的負担が増し、離職率の上昇を招く恐れがあります。
重要なのは、ASAの改善を個人の努力に依存させず、業務設計や運用の仕組みから見直すことです。たとえば、入電予測やIVRの振り分け精度を高めたり、ナレッジ共有で対応のムダを減らすなど、業務フロー全体を改善することで自然とASAが短縮され、現場の負担も軽減されます。
ASA改善は「頑張り」でなく「仕組み」で実現する——その発想転換が、持続的な運営の鍵となります。

「スピード」「品質」「運用定着」の3軸で施策を評価することの重要性

ASA改善の本質は、応答の早さ・品質・運用の定着を三位一体で考えることにあります。どれか一つに偏ると、短期的な改善で終わってしまうため、3軸で施策を評価する枠組みを持つことが大切です。ASAは目的ではなく成果を示す指標と位置づけ、現場が継続的に改善を続けられる仕組みを整えることが、顧客満足度と業務効率の両立を実現します。

まとめ|ASA改善は“全体設計”から。現場とシステムをつなぐパートナー選びが鍵

ASAの改善は、オペレーターの努力だけでなく、現場運用とシステム設計を一体で最適化する取り組みとして捉えることが重要です。どれだけ優れたツールを導入しても、現場の業務フローやデータ連携の設計が不十分であれば、運用が定着せず、ASAの改善効果も一時的なものにとどまります。
ASAを持続的に改善するには、IVRやボイスボット、CRMといった個別機能を「点」で導入するのではなく、顧客導線と運用全体を見据えた“全体設計”の視点が欠かせません。ツール間の連携やデータ統合を前提に、どのチャネルから入ってもスムーズにつながる仕組みを構築することで、応答スピード・品質・CXのすべてを底上げできます。


岩崎通信機は、通信技術・CRM・AIを一気通貫で設計・実装できる強みを活かし、現場と組織全体の業務が無理なくつながるシステム構築を支援します。IVRやボイスボット、CRMをはじめとする各システムを統合的に設計し、“現場で確実に使われる仕組み”として定着するASA改善をご提案します。


詳しくは、岩崎通信機の「AI・高度化支援ソリューション」をご覧ください。

 

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この記事を書いた人

 

 

藤井直樹

コールセンター業界で20年以上SEとして従事。
アナログ時代から今に至るまで現場に近い場所で技術の移り変わりを経験。
公共、金融業界、BPO業界の経験が豊富。

 

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