AHT(平均処理時間)とは?改善は運用×業務×システムで考える
AHT(平均処理時間)とは?改善は運用×業務×システムで考える

AHT(平均処理時間)の意味と改善方法を紹介する記事のメインビジュアル

 

 

AHT(平均処理時間)は、多くのコールセンターが最優先で改善に取り組む指標のひとつです。しかし、教育や業務整理に取り組んでも「あと少し改善できない」「どこに時間がかかっているのか見えない」と悩むケースは少なくありません。

 

本記事では、
  • AHTとは何か、その計算式と構成要素     
  • 改善のために押さえるべき「運用・業務・システム」の三位一体のポイント     
  • 短縮を過度に重視することで生じるリスクや、AHTを評価する際の注意点

 を分かりやすく解説します。

 

AHTとは?コールセンター運営で重視される理由

 

コールセンターでは、限られた人員で安定した応答品質を維持するために、多くの指標を管理します。その中でもAHTは、現場の生産性と顧客体験の双方に影響を与える重要なKPIとして扱われています。

AHTの定義

AHT(Average Handling Time:平均処理時間)とは、1件ごとの応対を始めてから完了するまでにかかった時間の平均値を指します。

AHTの重要性

AHTは、単なる業務スピードではなく応答率・顧客満足度(CS)・運営コストに直結します。
AHTが長くなると1時間あたりに処理できる件数が減少し、待ち呼が積み上がることでASA(Average Speed of Answer:平均応答時間)の悪化や応答率低下を招く恐れがあります。結果として「つながりにくい」「待たされた」といった顧客の不満につながり、人員増強や残業対応が必要になることで運営コストが増加し、顧客の離脱リスクを高める要因にもなります。

AHTは「適正値」を追うことが大切

一方で、AHTは「短ければ良い」という単純な指標ではありません。応対を急ぐあまり説明不足や誤った説明が発生すると、再コールやクレームにつながり、結果としてコールセンター全体の負担を増やしてしまいます。重要なのは品質を維持しながら適正なAHTを保つことであり、スピードとCX(顧客体験)のバランスを取る視点が欠かせません。

このようにAHTは、現場の稼働状況や教育レベル、問い合わせの複雑さなど、運営全体の健全性を映し出す指標となります。
まずはAHTを正しく理解することが、コールセンター全体の改善策を考えるうえでの出発点です。

AHTの計算式

AHTを正しく理解するために、まずは計算式と構成要素を確認しましょう。AHTは、次の計算式で求められます。
 AHT=ATT(平均通話時間)+ACW(後処理時間)÷応対件数           
問い合わせに関する対応は「話している時間」と「話した後の処理」に分かれるため、この合計が1件あたりの処理時間となります。
AHTの構成要素を分解することで、どこに改善余地があるのかを把握できます。

ATTとは?

ATT(Average Talk Time:平均通話時間)とは、顧客と実際に話している時間のことです。ヒアリング(状況確認・本人確認)や案内・説明、顧客の質問への回答といった応対が該当します。
たとえば、「住所変更の依頼で5分話した」という場合、ATTは5分となります。

 

ACWとは?

ACW(After Call Work:後処理)とは、通話終了後に行う、応対を完了させるための事務作業を指します。具体的には、CRMへの応対記録入力、申請処理・社内確認、応対履歴の整理、次回フォローのタスク登録などが該当します。
「通話は5分でも、記録に3分かかった」というケースはよくあります。この見過ごされやすい後処理時間が積み重なると、AHT全体に大きく影響します。

AHTを指標にする際のポイント

AHTを評価する際、平均値だけを見ると実態を捉えきれない場合があります。

例えば、次のような偏ったデータが平均値を押し上げてしまうケースは非常に多く、平均だけでは問題の所在が分からなくなる危険があります。
・特定の難易度の高い問い合わせだけ異常に時間が長い
・一部のオペレーターだけ処理が極端に遅い/速い

そのため、応対時間の分布からどの時間帯やどのようなケースで応対時間が長引いているかを読み取ることも重要になります。また、平均的な値から大きく飛び出しているデータの影響を考慮し、平均値だけではなく分布のばらつき具合を見ることも重要です。

AHTを改善する3つの方法

AHTを改善するためには、ATT・ACWのどこに滞留があるかを特定し、適正化することがカギですが、「とにかく早く話す」「後処理を急ぐ」といったオペレーター個人の努力に依存するアプローチでは限界があります。
現場の運用・業務フロー・システム設計を三位一体で見直すことで、初めて持続的な改善が実現します。

方法1:オペレーター教育・標準化(運用改善)

まず取り組みやすいのが、応対のばらつきを減らす“標準化” によってATTを改善するアプローチです。
オペレーターごとの判断・説明内容の差が大きく、通話時間にばらつきが出ている場合は、次のような対策が有効です。

 

・トークスクリプトやFAQ、ナレッジの整備
共通の回答フローを用意することで、誰でも一定品質で応対でき、無駄な確認や説明の行ったり来たりを削減できます。
スクリプトやFAQ、ナレッジを業務画面に統合して参照できる環境を整えることで、オペレーターが迷う場面を減らし、応対品質のばらつきを抑えることができます。こうした仕組みは、教育やOJTの効率化にもつながり、ATTの短縮効果が期待できます。

 

・教育・OJTの効率化
新人やアサイン直後のオペレーターは特にAHTが長くなりやすいため、教育やOJTが重要です。その際、ナレッジを活用することで、“質とスピード” を両立できます。

 

・通話中の迷いをなくす設計
応対手順の曖昧さは、オペレーターごとのATTのばらつきにつながる大きな要因です。次のようなマニュアルを整備するだけで、ATTが数十秒単位で改善することも珍しくありません。

    • 案内の順序
    • 聞き取るべき項目
    • 注意点の統一

 

これらの運用改善は取り組みやすい反面、「個人の努力に依存し続ける」という落とし穴もあります。本質改善のためには、業務改善・システム改善と組み合わせることが重要です。
ATTの改善方法については「コールセンターのATT(平均通話時間)の基礎知識&改善方法を紹介」で詳しく解説していますので、合わせてご覧ください。

方法2:ACWに関わる業務フローの見直し(業務改善)

ACWは、業務フロー上の“見えにくい滞留”が発生しやすい領域です。
通話は5分でも、後処理に3分かかる……というケースは非常に多く、その積み重ねがAHTを押し上げてしまいます。


ACWに潜むムダの例

  • 記録項目が多すぎる
  • 他システムとの行き来が多い
  • 手入力が多く誤記も発生しやすい
  • 申請フローや確認作業が属人的

こうしたムダを棚卸しして、「必要な作業」「削減できる作業」「システムやルールで置き換える作業」に仕分けるだけでも、ACWは大幅に短縮されます。

ACWの改善方法については「ACW(後処理時間)を短縮するには?長引く原因・改善策を解説」で詳しく解説していますので、合わせてご覧ください。

方法3:システム・テクノロジーによる仕組み改善(システム改善)

運用改善や業務改善で一定の効果が出ても、AHTを左右するボトルネックがシステム基盤に起因するケースは少なくありません。特に、ルーティングの精度、入力作業の自動化、情報参照のしやすさなどは、現場の努力だけでは解決しきれない領域です。 

 

・ルーティング精度の向上による保留・転送の削減

問い合わせ内容に応じて最適なオペレーターへ自動でつなぐことで、不要な転送や保留を減らし、通話時間のばらつきを減らすことができます。

シナリオ分岐やスキルベースルーティングを整えることで、全体のAHT短縮につながります。

 

・通話内容の自動記録や音声認識によるACW削減

通話ログの自動保存、入力補助、音声認識によるメモ生成などの自動化機能は、ACWを大幅に短縮します。

手作業で行っていた記録作業を減らすことで、オペレーターが本来の応対に集中できる環境が整います。

 

・CRM・FAQ・履歴情報の統合による検索性向上

顧客情報・応対履歴・FAQがバラバラに存在すると、確認作業に時間がかかってしまいます。

情報がひとつの画面に集約されているだけで、ヒアリングや案内がスムーズになり、結果として通話時間のばらつきが減少します。

 

・リアルタイム分析でAHTのボトルネックを可視化

AHTは平均値だけでは実態が見えにくい指標です。

リアルタイム分析の基盤が整っていれば、

  • どのチャネルが長いか
  • どの問い合わせタイプがボトルネックか
  • どの工程で時間が長くかかっているか

を把握し、改善の優先順位を明確にできます。

システム改善の実現を加速させるGenesys Cloud CX

システム・テクノロジーによる仕組み改善はオンプレミスの拡張では限界があるため、近年はクラウド型コンタクトセンター基盤を採用する企業が増えています。
岩崎通信機が取り扱うクラウド型のコンタクトセンターソリューションである「Genesys Cloud CX」は、こうしたルーティング最適化・自動化・分析の仕組みを包括的に提供するプラットフォームです。AHT改善を支える“システム改善”の実行基盤として活用できます。

AIによるコールセンター/コンタクトセンターの改善については「コールセンター/コンタクトセンターのAI活用術|拡張性・セキュリティ設計が成功の鍵」で詳しく解説しています。


AHT改善の際の注意点

AHTは重要なKPIですが、数値だけを追いかけると、かえって現場の負担を増やし、CXを損なう可能性があります。ここでは、AHT改善で陥りやすい誤解や注意点を整理します。

ATT短縮だけを追うと品質低下を招く

ATTを短縮することに意識が集中すると、オペレーターが本来必要な説明を省略したり、顧客の理解度を確認しないまま通話を終えてしまうケースが発生します。その結果、「再コールの増加」「誤った説明によるクレーム」「顧客満足度の低下」といった二次的な問題が発生し、コールセンター全体の負荷がむしろ増えることもあります。
ATT短縮の目的は、通話を単に早く終わらせることではありません。「顧客に正しく理解してもらいながら、効率的に応対する」ことが本質です。

ACWを減らしすぎると記録品質・ナレッジの蓄積が損なわれる

ACWは改善しやすい領域ですが、過度な短縮は以下のリスクを招く可能性があります。
  • 応対履歴が不十分で、次回応対が非効率になる
  • 正確なVOC(顧客の声)が残らず、改善が進まない
  • ナレッジの蓄積が止まり、新人教育や標準化が機能しなくなる

 

記録の質が落ちると、長期的に顧客満足度に悪影響を与えます。ACWは「削減する部分」と「削減してはいけない部分」を見極めることが重要です。

「正常なAHTの増加」もある

AHTが長くなってしまう背景には、コールセンター側の問題だけでなく、問い合わせ内容の複雑化や個別対応の増加といった要因もあります。

たとえば、以下のようなケースでは、AHTが長くなるのは自然なことです。
  • 新サービス開始直後の問い合わせ増大
  • 障害・トラブル時の確認項目増加
  • 法規制対応による説明項目の増加

AHTが短くても品質が悪ければ意味がありませんし、逆に複雑な問い合わせを丁寧に応対した結果、AHTが長くなることは“正常な状態”である場合もあります。

AHTの短縮は「目的」ではなく、CXと運営効率のバランスを測るための“指標”として扱うことが重要です。

コールセンター管理者が陥りやすいポイント

  • AHT短縮を“ノルマ化”すると現場に過剰な負荷がかかり、離職につながる
  • ACW削減を求めすぎると、記録不備によりAHT悪化を招く
  • 難易度が高い応対を、簡易問い合わせと同じ基準で評価してしまう
  • 数値が改善しても、CXや一次解決率が落ちていることに気づかない
  • 一時的な改善にとどまり、仕組み改善につながらない

 

AHTを短縮すること自体が目的ではなく、顧客体験と運営効率を両立させるための“手段”であることを常に意識することが、リーダーの重要な役割です。

継続的なAHT改善は“仕組みの改善”から始まる

AHTは重要な指標ですが、短縮だけを目的にすると品質低下や現場負荷の増大につながります。重要なのは、運用・業務・システムを三位一体で改善し、適正なAHTを維持することです。
まずは、どの工程で時間がかかっているのかを正確に可視化することが改善の出発点です。AHT値だけでは見えないボトルネックを把握することで、取り組むべき領域が明確になります。
そのうえで、持続的な改善には、個人の努力ではなく データに基づいた仕組みづくりが欠かせません。問い合わせ導線の整理、業務フローの見直し、自動化・連携によるシステム改善を組み合わせることで、AHTだけでなく応答率やCXの向上につながります。

AHTは現場の実態を正しく捉え、改善すべきポイントに継続的に手を打てているかを確認するための指標として活用することが重要です。
この視点を持つことで、結果としてコールセンター全体のパフォーマンス向上につながります。

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  • AHT分析基盤の構築
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岩崎通信機が提供するコンタクトセンター構築支援の詳細や、支援を通じて得られるメリットについては、サービスページ「コンタクトセンター構築」をご覧ください。


 

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AHTをはじめとするコールセンターKPIを改善するには、運用や業務フローの見直しが欠かせません。

特にオンプレミス環境では、拡張性・保守性・連携性が制約となり、「改善したいのに仕組みが追いつかない」という課題が生まれやすくなります。

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この記事を書いた人

 

 

藤井直樹

コールセンター業界で20年以上SEとして従事。
アナログ時代から今に至るまで現場に近い場所で技術の移り変わりを経験。
公共、金融業界、BPO業界の経験が豊富。

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