ACW(後処理時間)は、「気づけば積み上がり、なかなか短くならない」領域として、多くのコールセンターが悩みを抱えるプロセスです。入力スピードを上げたり教育を強化しても改善しないのは、ACWの長さがオペレーター個人の作業速度ではなく、情報が点在し、探して書くといった“構造そのもの”に起因しているためです。
本記事では、ACWの基礎とAHT(平均処理時間)との関係を整理したうえで、後処理が長くなる根本要因を“情報の流れ”の観点からひも解きます。さらに、ACWを持続的に短縮するために欠かせない「情報の再設計」と「仕組み化」の考え方を紹介し、現場負荷の軽減とコールセンターの業務改善の方向性をお伝えします。
まずはACWの定義やAHTとの関係性を整理しながら、なぜコールセンター運営において欠かせない指標なのかを解説します。
ACW(After Call Work:後処理時間)とは、通話終了後にオペレーターが行う各種の後処理に要する時間を指します。
後処理には次のような作業が含まれます。
これらは顧客からは見えませんが、コールセンター全体の処理能力を左右する要因となります。
ACWを理解するうえで欠かせないのが、AHTとの関係性です。AHTは一般的に次の式で表されます。
AHT =ATT(平均通話時間)+ACW(後処理時間)÷応対件数
ACWが長くなればAHTも長くなり、応答率の低下や人手不足の発生など、コールセンター運営に直接的な影響が及びます。
AHTの基礎知識については「AHT(平均処理時間)とは?改善は運用×業務×システムで考える」を、ATTの基礎知識については「コールセンターのATT(平均通話時間)の基礎知識&改善方法を紹介」をご覧ください。
ACWが長くなると、コールセンター運営のあらゆる指標に影響します。例えば次のような悪影響が生じます。
・応答率・ASAの悪化
後処理が完了しないまま次の電話対応を優先せざるを得ないケースも多く、結果として後処理が滞留します。その影響で、処理効率が下がり、応答率やASA(Average Speed of Answer:平均応答時間)の悪化につながります。
ASAの定義については「コールセンターのASA(平均応答時間)とは?改善の考え方と注意点を解説」で詳しく解説しています。
・人件費増加
ACWが長い状態が続くと、必要人員が増え、運営コストの増加に繋がります。
・心理的ストレス・離職リスク増大
後処理に追われる状況が続くと、オペレーターの負担が増し、心理的ストレスや離職につながることも珍しくありません。
特に情報が分散している・記録ルールが曖昧といった構造的な問題がある場合、オペレーター個人の努力では改善できず、疲弊する要因になります。
この章では、ACWを短縮しづらい根本的な要因を整理しながら、「なぜACWの改善に取り組む必要があるのか」を明確にしていきます。
ACWは、オペレーターのスキルや作業スピードだけでは解決できない、構造的な負荷が多く含まれています。実際に、多くのコールセンターで次のような問題が見られます。
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作業量がそもそも多い |
問い合わせ内容が複雑化し、後処理に必要な情報整理が増え続けています。 |
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情報が分散している |
CRM・チャット・メール・Excel・紙の資料など、必要な情報が複数の場所に点在しており、「探すだけで時間がかかる」状況が慢性化しています。 |
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記録ルールが曖昧で属人化が進む |
書き方・粒度・項目解釈がオペレーターごとに異なり、作業時間や品質にバラつきが生まれます。 |
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ツールやシステムが複数存在し、記録に手間がかかる |
複数画面を行き来し、同じ情報を転記したり、ダブル入力を繰り返す構造がACWを長くします。 |
これらは多くの場合「人の努力では解決できない問題」であるため、解決するためのカギは、現場による努力ではなく“仕組みの改善”にあります。
ACWを短縮できればコールセンターの運営に大きなメリットが生まれます。
・AHTが改善する
通話時間が変わらなくても、ACWが短縮されることでAHTは安定し、生産性の指標全体に良い影響が出ます。
・応答率が向上する
後処理が早く終われば、次の呼への応対も早まり、ASA・応答率の改善につながります。
・オペレーターに余裕が生まれ、品質も向上
後処理に追われる状態が減ることで、以下のような効果が期待できます。
・ナレッジ・データの質が上がる
記録が標準化され、情報が正しく蓄積されることで、FAQや業務改善にも波及します。
・コールセンター全体の“構造コスト”を削減
仕組みを改善することで、現場の残業抑制、人員計画の最適化、離職率低減といった“直接的・間接的コスト”を下げる効果があります。
ACWは“入力作業が大変だから”長くなるのではありません。実際には、情報が散在する → 書くのに時間がかかる → また探す、という「探す・書く」の連鎖が発生し、この構造こそがACWを長引かせる主な要因になっています。
後処理で必要な情報が、以下のような複数のシステム・媒体に散らばっている状態は珍しくありません。
これらの媒体は、必要な情報が一元管理できないため、毎回「どこに何があるか探す時間」が必ず発生します。この“探す時間”こそがACWの大きな負荷要因です。
書き方が標準化されていないと、次のような問題が発生し、ACWが長くなります。オペレーターが後処理中に行う操作の多くは、複数画面を行き来しての転記作業です。顧客情報はCRM、トラブル管理は別システム、案件分類は別ツール、ナレッジはまた別画面……というケースも少なくないでしょう。
しかし、この分断構造により「表示→確認→転記→別画面へ→再確認」という手戻りが常態化し、ACWが増加します。
さらに、入力ミスや記録漏れのリスクも高まり、品質低下にもつながります。
後処理に必要な要素が曖昧なままだと、作業負荷が膨らみます。
例えば「引き継ぎ情報の項目が曖昧」「タグ・分類基準が不統一」「必須項目や“書くべき要点”の定義が不明確」といった状態だとしましょう。そうすると、オペレーター自身が「何をどうまとめれば良いか」を判断しながら書くことになり、作業が遅くなるだけでなく、記録の質にもばらつきが生まれます。
つまり、ACWを長引かせる原因は、
という「探す・書く」のループ構造そのものです。
この構造を見直さない限り、いくら「入力を早く」「教育を強化」といった施策を重ねても、ACWは本質的には短縮できません。
では、「探す・書く」のループ構造を見直すにはどのようなアプローチが有効でしょうか。
ACWの大部分は、「必要な情報を探す」ことに時間を取られる構造が原因です。そのため、もっとも効果が大きい改善施策が「情報管理の一元化」です。
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情報管理の一元化で目指せる状態
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「どこに何があるのかを探す」工程がなくなるだけで、ACWは劇的に短縮します。
逆に、一元化されていない環境では、どれだけ入力を訓練しても改善は頭打ちになります。
記録の書き方に迷う時間は、ACWを長引かせる要因のひとつです。迷いをなくすためには、書き方のルール・項目の設計・テンプレート化といった標準化が重要です。
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標準化のポイント
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標準化されていれば、“何を書くべきか考える時間”を削減でき 、後処理は確認と入力だけに変わります。
結果として、ACWのばらつきは小さくなり、品質も安定します。
ACW改善で最もインパクトが大きいのが、情報を“書く”のではなく“自動で集まる・自動で整理される”仕組みをつくることです。
例えば、以下のような仕組みが考えられます。
これらが整うことで、オペレーターは“書く”のではなく、“確認する”だけの仕事へ変わります。つまり、作業負荷が大幅に削減され、ACWの構造自体が短縮されるということです。
こうした「情報が自動で集まり、必要な項目に整理される仕組み」を実現するには、システム側の拡張性や連携が欠かせません。
岩崎通信機の提供する「Genesys Cloud CX」のようなクラウド型コンタクトセンター基盤では、音声認識による通話内容のテキスト化、AIによる要点抽出、CRM・FAQとの自動連携といった後処理に直結する機能を統合的に利用できます。
ACW は重要な改善指標ですが、「とにかく短くすること」自体を目的にしてしまうと、かえって別の課題を生むことがあります。数値だけを追うのではなく、後処理の本来の役割や現場への影響を踏まえた改善が欠かせません。
ここでは、ACW 短縮に取り組む際に特に注意したいポイントを整理します。
ACWを短くしようと意識しすぎると、記録内容が薄くなり、必要な背景情報が不足したり、曖昧になったりするといった状況が起こりやすくなります。
記録の質が低下すると、後続処理での手戻りが増える→再コールや誤った説明につながる→FCRが低下するという悪循環を招きます。
ACWは“短く書くこと”ではなく、“正しく次工程につなぐための記録”を残すことが第一優先です。
音声認識やAI要約などを活用することでACWは大きく短縮できますが、AIが生成した内容には次のようなリスクがあります。
そのため、AI記録は「人が最終確認すること」を前提とした運用設計が不可欠です。AIを“自動化ツール”としてだけではなく、“判断補助として使う”というスタンスが最適です。
ACWは「短ければよい」という性質のものではありません。本来の目的は、次の担当者が迷わないよう「事実を正確に記録する」「必要な情報を整理された状態で残す」といった “後続の業務がスムーズに進むための整備” です。
ACWを短縮しつつ品質を守るには、記録の目的を見失わないこと、そして仕組みで品質と効率を両立することが欠かせません。
ACWが長くなる背景には、情報が点在し、記録が属人化し、システムが分断されるといった“構造”の問題があります。つまり、後処理は入力の速度や教育だけでは改善できず、仕組みを整えなければ根本的には短縮できません。
重要なのは、必要な情報にスムーズにアクセスでき、記録内容が標準化され、音声認識やAI要約などで情報が“自然に集まり整理される”環境をつくることです。この仕組みが整えば、ACWは無理なく短縮され、AHTや応答率、記録品質の向上にもつながります。
ACW改善の本質は、オペレーターの努力だけではなく、“情報の流れ”そのものを設計し直すことにあります。
ACWを根本から短縮するためには、現場の努力だけでなく、情報の流れ・システム構造・業務設計を一体で最適化することが欠かせません。岩崎通信機では、コールセンターの実務に即した“仕組みづくり”の視点から、次のような支援を提供しています。
・情報管理の一元化の基盤構築
分散した顧客情報・FAQ・通話データを統合し、「探さない後処理」を実現します。
・音声認識 × AI要約による後処理の自動化
通話内容の自動テキスト化と要点抽出により、記録作業を大幅に削減します。
・システム間連携・ワークフロー自動化
CRM・CTI・FAQなどを連携し、転記・二重入力をなくして業務全体を効率化します。
・データ基盤の整備と可視化
現場で使える形でデータを整理し、業務改善やナレッジ活用につながる状態を構築します。
・業務分析〜運用設計〜システム開発までの一気通貫支援
現場課題の整理から仕組みの設計・実装までを一貫して支援し、継続的に改善できる基盤を提供します。
ACWをはじめとする後処理の課題は、仕組みを整えれば大きく改善できます。岩崎通信機は、コールセンターの状況に合わせた最適な情報管理とシステム環境の構築を通じ、現場の負荷軽減と生産性の向上をご支援します。
岩崎通信機が提供するコンタクトセンター構築支援の詳細や、支援を通じて得られるメリットについては、サービスページ「コンタクトセンター構築」をご覧ください。