ATT(平均通話時間)は、コールセンターの生産性や応答率を左右する重要な指標です。しかし、通話トレーニングやスクリプト改善を重ねても「なかなかATTを短縮できない」と悩む現場は少なくありません。その理由は、ATTが“話し方”だけで決まるわけではないからです。実際には、通話中に必要な情報へ迷わずアクセスできるかどうかという “情報の流れ” が大きく影響します。
本記事では、
コールセンターでは、生産性や応対品質を把握するために複数の指標を管理します。その中でもATTは、通話プロセスそのものを映し出す重要なKPIです。
ATT(Average Talk Time:平均通話時間)とは、1件ごとの応対において、オペレーターが顧客と実際に話している時間の平均値を指します。
ヒアリングや状況確認、案内・説明、質疑応答など、通話中のすべての会話時間がATTに含まれます。
ATTは、コールセンター業務の中でも顧客と直接向き合う時間であり、応対品質や顧客体験(CX)を左右する重要な指標です。
ATTは単体で評価する指標ではなく、AHT(Average Handling Time:平均処理時間)を構成する主要な要素として理解することが重要です。
一般的に、AHTは次の式で表されます。
AHT =ATT(平均通話時間)+ACW(後処理時間)÷応対件数
ATTが長くなればAHTも必然的に長くなり、応答率・生産性・人員計画に影響します。
AHTの基礎知識については「AHT(平均処理時間)とは?改善は運用×業務×システムで考える」を、ACWの基礎知識については「ACW(後処理時間)を短縮するには?長引く原因・改善策を解説」をご覧ください。
ATTに「保留時間」を含むかどうかの定義はコールセンターによって異なります。定義を統一していないと、現場間の比較が難しくなり、改善効果の評価が不正確になります。そのため、自社内でATT・保留・ACWの定義を明確化し、KPIの基準を統一することが重要です。
ATTは単なる通話時間ではありません。生産性・人員計画・顧客体験(CX)の中心に位置する指標です。通話が長くなると処理件数が減り、人員計画や応答率に直結します。また、案内の質や顧客満足度にも影響するため、コールセンターの運営全体を評価するうえで欠かせない“基礎指標”として位置付けられています。
ATTが長くなると、CPH(Calls Per Hour:オペレーターひとりが1時間あたりに応対したコール数 )が減少します。その結果、待ち呼が積み上がり、ASA (Average Speed of Answer:平均応答時間)や応答率の低下を招く恐れがあります。
反対にATTを適切に管理できれば、コールセンター内での応対件数が増え、生産性を大きく向上させることができます。
通話時間が長くなると、必要なオペレーター数が増え、結果として運営コストの増加に繋がります 。
ATTを適切に管理することで、オペレーターの増員を抑えつつ生産性を維持でき、コールセンター全体のコスト最適化につながります。
ATTを短縮することだけを目的化すると、顧客への説明不足や確認漏れが発生し、結果として再コールやクレームにつながる危険があります。
重要なのは必要な説明を丁寧に行いながら、無駄のない応対を実現する“最適なATT” を目指すことです。
取り扱うサービス・オファリングの複雑さ、顧客属性、問い合わせ内容などによって、最適なATTは異なります。
そのため、他社比較ではなく、自社の業務特性と現場状況に基づいた指標設計が重要になります。
ATTが長くなる要因は複数あり、顧客の状況・オペレーターのスキル・業務やシステムの設計が複合的に影響します。
まずは、この3つの視点から原因を整理することが重要です。
こうした要因はオペレーターの努力では解消できず、ATTが長くなる“根本的な原因”になりやすい領域です。
構造的な要因を整理すると、ATTが長くなる根本的な原因は“会話そのもの”ではなく、“必要な情報にスムーズにたどり着けない仕組み”にあるということが見えてきます。
この視点を持つことで、改善の方向性が“仕組みづくり”へ向けられるようになります。
ATTを短縮するために「話し方を改善する」といったオペレーターに依存する施策だけでは、持続的な効果は期待できません。重要なことは、通話中に必要な情報へスムーズに到達できる“仕組み”をつくることです。
ここでは、ATTを短縮するために押さえておきたい3つのポイントを整理します。
ATTを増加させる要因の一つは「情報を探す時間」です。つまり、必要な情報にスムーズにアクセスできる環境が整っているかどうかが、ATTを短縮するカギになります。
そこで、次の視点から情報へアクセスするための仕組みを見直してみましょう。
必要な情報へのアクセス性が向上すると 、結果的にATTが短縮されます。
応対フローが分かりにくいと、適切な説明の内容や順序が分からなくなり、不要な確認が増えてしまいます。ATTの短縮には、分かりやすい応対設計が欠かせません。
次のような応対フローを整理することで、応対の安定化と通話時間の短縮が同時に実現します。
情報が複数のシステムに分散していると、画面遷移や検索が増え、通話中の手戻りが発生します。システム連携により必要な情報が“リアルタイムで届く”状態にすることで、ATTを短縮することができます。
*CTI(Computer Telephony Integration):電話機能とコンピュータシステムを連携させる技術のこと
コールセンターにおけるCRMの導入効果については「コールセンター/コンタクトセンターにおけるCRM導入の効果と成功のポイント ― 顧客体験を高める仕組みとは」で詳しく解説しています。
また、応対の振り返り・改善にもシステム連携が効果を発揮します。次のように活用することで、運用・業務改善が図れます。
システムが“情報の橋渡し”をすることで、オペレーターは応対に集中でき、通話全体がスムーズになります。
「データを活用した振り返り・改善」を実現するには、システム側の拡張性・連携性が欠かせません。岩崎通信機が提供する「Genesys Cloud CX」のようなクラウド型コンタクトセンター基盤では、顧客情報の自動表示、FAQ・ナレッジとの連携、リアルタイム分析といった仕組みを統合的に実現。ATTに影響をおよぼす通話中の情報アクセスを大幅に効率化できます。
ATTを短縮するための本質は、オペレーターの応答スキルではなく、必要な情報にスムーズにアクセスできる設計(情報動線)を整えることにあります。必要な情報がスムーズに取得でき、応対フローが明確になれば、通話は自然と短くなっていきます。
属人的な努力に頼らず、効率的な応対ができる環境を設計することこそが、ATT最適化のカギです。
コールセンターのシステムを最適化する考え方・方法については「コールセンター/コンタクトセンターのシステム再構築|運用される設計で失敗を防ぐ」で詳しく解説しています。
ATTは重要な指標ですが「時間短縮」だけを目的にすると、かえって現場への負荷増大や顧客体験の質の低下を招く恐れがあります。ここでは、ATTの改善で陥りやすい誤解や注意点を整理します。
ATTを短くすることを「通話時間を削ること」だと誤解すると、必要な説明を省略したり、顧客の理解度を確認しないまま通話を終えてしまうケースが発生します。その結果、再コールの増加や誤った案内によるクレーム、CS(顧客満足度)の低下といった二次的な問題が生まれ、コールセンター全体の効率がむしろ悪化します。
ATTで求められることは単なる“速さ”ではありません。顧客が理解し、満足して通話を終えるための「無駄のない進行」こそが重要です。
ATTはコールセンターの業務内容や担当領域によって適正値が大きく異なります。
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業務例 |
適正なATT |
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支払い・住所変更などシンプルな業務 |
短め |
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技術サポートやトラブル対応 |
長め |
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高齢者対応など、丁寧さが求められる業務 |
長め |
他社比較や一律目標ではなく、自社の業務特性と顧客属性に応じて“適正なATT”を設定することが重要です。
ATTだけを見ると、改善の方向性を誤りやすくなります。
例えば、ATTが短くても ACW(After Call Work:後処理時間)が膨らんでAHTが伸びているケースや、ATTを短縮した結果、主要KPIの一つであるFCR(First Call Resolution:一次解決率)が低下するケースは珍しくありません。
そのため、ATTは次のような指標とセットで評価し、“全体最適”の観点で判断することが必須です。
ATTは単なる通話の長さではなく、コールセンターの生産性・品質・顧客体験を左右する重要な指標です。しかし、ATTを短縮すること自体が目的化すると、説明不足や理解度の低下を招き、結果として応対品質や満足度を損なう可能性があります。
ATTを最適化するうえで本当に重要なのは、オペレーターのスキルだけではなく、通話中の“情報の流れ”を整えることです。必要な情報へスムーズにアクセスでき、応対フローが明確で、システムが自動的に必要な情報を提示してくれる環境があれば、通話は自然と短くなります。
ATTを改善するには、オペレーターの努力だけでなく、情報の探しやすさ・応対フロー・システム連携といった“仕組みそのもの”を整えることが欠かせません。
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<アプローチの例>
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