コンタクトセンターのクラウド化が進む一方で、「クラウドが停止したら問い合わせ対応ができなくなるのではないか」と不安を感じる企業も少なくありません。
実際に、近年はクラウドサービス障害や大規模通信障害、自然災害などによって、一時的に業務へ影響が生じるケースも見られます。しかし、こうしたリスクがあるからといって、クラウド化を避けることが最適解とは限りません。
重要なのは、「絶対に止まらない仕組み」を目指すことではなく、「止まることを前提に、どのように事業を継続するか」を考えることです。
本記事では、コンタクトセンターにおけるBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)の考え方を整理しながら、自社に適した対策レベルの見極め方や、クラウド時代に求められる具体的なBCP対策について解説します。
クラウドPBXやクラウド型コンタクトセンターシステムは、柔軟性や拡張性の高さから多くの企業で導入が進んでいます。一方で、近年は大手クラウドベンダーや通信事業者においても障害が報じられることがあり、「もしクラウドサービスが停止したら業務も止まるのではないか」と不安を感じる担当者も少なくありません。こうしたニュースを目にする機会が増えたことで、コンタクトセンターのBCP対策を改めて見直す企業も増えています。
まず理解しておきたいのは、オンプレミス環境であってもクラウド環境であっても、システム障害や災害による停止リスクをゼロにすることは難しいということです。
クラウドサービスは高い可用性を備えていますが、障害が発生しないわけではありません。実際には、クラウド基盤の障害や通信キャリアの障害、インターネット回線のトラブルなどによって、一時的にサービスが利用できなくなるケースがあります。
そのため、「クラウドだから安全」「オンプレミスだから安全」と考えるのではなく、障害発生時にどのように業務を継続するかという視点が重要です。
BCP対策というと、大規模なバックアップ構成の整備や高額な設備投資をイメージされることがあります。しかし、本来の目的は事業を継続することであり、全ての機能を維持し続けることではありません。
例えば、通常時と同じ応対品質を維持できなくても、問い合わせ受付だけは継続する、重要顧客向け窓口だけは維持するといった考え方もBCP対策の一つです。重要なのは、自社にとって何を優先して守るべきかを明確にすることです。
クラウド化によって災害対策や拠点分散が実現しやすくなる側面もあります。
物理設備を自社内に保有する場合、拠点自体が被災すると業務継続が困難になることがあります。一方で、クラウド環境を活用することで、拠点や端末に依存しない運用を実現しやすくなります。
そのため、クラウド化とBCP対策は対立するものではなく、適切な設計によって両立できるものとして考えることが大切です。
クラウド化のメリットや導入時のポイントについては「クラウドPBXで進めるコンタクトセンターのクラウド化――仕組み・メリット・導入ステップと現場課題の解決法を徹底解説」をご覧ください。
コンタクトセンターのBCP対策を検討する際は、まず「どこまで業務を継続する必要があるのか」を整理することが重要です。
全ての企業が同じレベルの冗長化やバックアップを必要とするわけではありません。
例えば、電気・ガス・通信などの社会インフラを支える企業では、問い合わせ窓口の停止が社会的な影響につながる可能性があります。そのため、障害発生時にも迅速な復旧や代替運用が求められます。
一方で、ECサイトや通販事業の場合は、仮にチャットツールやメールによる問い合わせが中心でそこに障害が発生しても、電話窓口へ切り替え、IVR(Interactive Voice Response:自動音声応答)による受付維持や折り返し対応によって事業継続できるケースもあります。
業種やサービス特性によって求められる継続性は異なるため、自社の重要業務を整理することが出発点になります。
BCP対策では、「何を守るか」と同時に「何であれば一時的に停止できるか」を決めることも重要です。
全ての機能を常時維持しようとすると、コストが膨らみ現実的な運用が難しくなる場合があります。
例えば、以下のように整理することで、適切な投資判断がしやすくなります。
電話受付は維持する
メール対応は翌営業日に再開する
一部の問い合わせはIVRで案内する
緊急案件のみ有人対応する
BCP対策に正解はありません。重要なのは、自社が許容できる停止時間や影響範囲を把握し、その範囲に見合った対策を選択することです。
必要以上の投資は運用負担につながり、不十分な対策は事業継続リスクを高めます。事業特性や顧客への影響を踏まえながら、現実的なバランスを見極めることが重要です。
コンタクトセンターのBCP対策は、一つの対策だけで実現するものではありません。通信・システム・運用の各領域で複数の対策を組み合わせることで、障害時の影響を最小限に抑えやすくなります。
コンタクトセンターにおける障害リスクの一つが通信回線の停止です。そのため、異なる通信キャリアを組み合わせることで、一方に障害が発生した場合でも通信を継続できる構成を検討します。
単一の回線に依存しない設計は、BCP対策の基本となります。
システム障害が発生した場合に、どのように運用を継続するかも重要です。
例えば、以下のような運用シナリオを事前に設計しておくことで、障害発生時の混乱を抑えやすくなります。
別番号への自動転送
緊急用窓口への切り替え
IVRによる一次受付
在宅オペレーターへの振り分け
システムだけでなく運用面まで含めて設計することが、実効性のあるBCP対策につながります。
近年は在宅勤務や分散運用を採用するコンタクトセンターも増えています。そのため、オフィス内だけを前提としたセキュリティ対策では不十分なケースもあります。利用場所を問わず適切な認証を行うゼロトラストの考え方を取り入れることで、災害時や緊急時にも柔軟な運用を実現しやすくなります。
コンタクトセンターのセキュリティ対策については「コールセンター/コンタクトセンターのセキュリティ対策 ― ゼロトラストで備えるAI・クラウド・在宅時代のリスク」もご覧ください。
実際のBCP対策では、障害そのものを完全に防ぐことよりも、障害発生時の影響をどこまで抑えられるかが重要になります。
ここでは、コンタクトセンターのBCP対策として検討される代表的な設計の考え方を紹介します。障害や災害が発生した際の影響を抑えるために、どのような構成や運用を取り入れるとよいのかという観点で見ていきましょう。
通信キャリアの障害が発生した場合、単一回線のみで運用している環境では問い合わせ受付が停止する可能性があります。
そこで、異なる通信キャリアや異なるネットワーク経路を組み合わせることで、一方に障害が発生しても別経路で着信を継続できる構成が採用されることがあります。
重要なのは、障害発生後に対応を考えるのではなく、事前に切り替え方法を設計しておくことです。
地震や水害などによってオフィスが利用できなくなった場合でも、クラウド型コンタクトセンター基盤を活用することで、在宅オペレーターへ業務を移行できるケースがあります。
平常時から在宅運用環境を整備しておくことで、緊急時にも比較的スムーズな業務継続が可能になります。
BCP対策は設備だけでなく、運用体制まで含めて準備しておくことが重要です。
コンタクトセンターの基盤設計や運用を見据えた再構築の考え方については「コールセンター/コンタクトセンターのシステム再構築|運用される設計で失敗を防ぐ」をご覧ください。
障害発生時には、全ての問い合わせを通常どおり処理することが難しい場合もあります。そのような場合は、緊急性の高い窓口を優先し、その他の問い合わせはIVRやWebフォームへ誘導することで、限られたリソースでもサービス提供を継続できます。
事前に優先順位を整理しておくことで、障害時の判断負荷を軽減できます。
コンタクトセンターのBCP対策では、システムの導入だけでなく、自社に必要な継続レベルを整理し、それに合わせた設計を行うことが重要です。
岩崎通信機では、コンタクトセンター基盤の構築を支援しています。単にシステムを導入するだけでなく、事業継続性や運用負荷、将来的な拡張性まで見据えながら、お客様の業務に適した環境づくりをサポートしています。
BCP対策は企業ごとに求められるレベルが異なります。そのため、まずは業務内容や顧客対応の重要度を整理し、必要な可用性や復旧目標を明確にしたうえで最適な構成を検討します。
システム導入だけでなく、障害発生時の運用フロー設計まで含めて支援可能です。
企業によっては、全てをクラウド化するのではなく、一部機能をオンプレミス環境に残したいケースもあります。
岩崎通信機では、既存環境との連携や段階的な移行も含めて、運用実態に合わせた構成を提案しています。
コンタクトセンターのBCP対策では、アプリケーションだけでなく通信基盤も重要な要素です。
通信回線の二重化やネットワーク設計、セキュリティ対策まで含めて検討することで、障害発生時の影響を抑えやすくなります。
岩崎通信機のコンタクトセンター基盤の構築支援に関する詳細は、サービスページ「コンタクトセンター構築」をご覧ください。
コンタクトセンターのBCP対策は、「絶対に止まらない環境」を目指すことではなく、「止まった場合でも事業を継続できる環境」を整備することが目的です。
クラウドサービスや通信回線には一定の障害リスクがありますが、適切な要件定義と多層的な対策によって影響を最小限に抑えることは可能です。
まずは、自社にとって何を優先して守るべきかを整理し、必要な継続レベルを明確にすることから始めてみてはいかがでしょうか。